あとがき 2011年11月2日~6日

この物語は、外見。

 

顔にめちゃくちゃ自信のない一人の女性の物語だ。

 

この物語を思いついたのは、交通事故を起こして救急車で運ばれたとき。

 

もともとそんなに自分に自信がないのが、さらに自分に自信がなくなった。

 

キズもの。

 

そういう女の人が壊れちゃったらどうなるのか…というのをふくらませたのが今回の物語。

 

最初。コーヒーを飲む女とコーヒーを入れる男は登場しなかった。

 

お姉ちゃんと妹と手袋をした女の子の三つ巴の戦いみたいな感じで物語が進行していく構成になっていた。

 

しかしながら、キャストを集めてみると…。

 

なにかキャラクターとキャストがかみ合わない。なんか納得がいかなくて気持ち悪い。

 

登場人物を増やすことに決めた。

 

今回はどうしても活躍してもらいたい…というか自分の中で評価をさせたい役者がいた。名前は伏せる。

 

書き直してみると、前のものよりか物語が明確になった。

 

もう一度いう。これは顔に自信のない「ママ」の物語。

 

物語を追っていくと途中で分からなくなってしまった人もいるかもしれない。

 

物語的納得よりも、画の納得に重点を置いた結果そうなった。

 

物語は過去・現在・未来が入り乱れる。

 

彼氏に見える俳優たちは、以前殺される人、これから殺される人、未来に殺されるであろう人。

 

という具合にそれぞれのシーンはすべて時間軸が違う。

 

彼氏たちと同じやりとりを「ママ」の人格たちは繰り返しているいう風に見せたかった。

 

人格が分かれているために特徴をそれぞれにつけた。

 

お姉ちゃんは、睡眠欲。

 

美人で料理もできて、文句をいいながらもこっそりと彼氏にプレゼントとかしちゃうようなかわいいキャラにもかかわらず、愛してもらえない。

 

妹には、性欲。

 

料理もできない、かたずけもできない、生意気だが、非常に活発で明るくかわいく見える。男を手の上で転がすころができ、いろいろ試してみるものの、心から男を愛することができない。

 

手袋をした女の子には、食欲。

 

やけどをしているという設定のため、火を使った料理ができない。アイスばかり食べている。自分からは何か主張をすることはない。醜いという外見を持っているにも関わらず、男性に十分な愛をもらえる。

 

この上記の3人は「ママ」の人格だ。そして、ママの妹も「ママ」の人格のひとつになるように最終的に物語の結末をもっていった。

 

人格の生まれた順番としては。

 

ママ→ママの妹→妹→おねえちゃん→手袋をした女の子→コーヒーを飲む女。

 

となっている。

 

じゃあ。なんで一人の人格なのに人格同士が虐待しあったり、ののしりあったりしているシーンを作ったのか?

 

姉妹のシーンはおいて、おいて。

 

ママと姉妹のやり取りのシーンについては、「ママ」の母親についてのシーンにも見えるようにした。

 

「ママ」という主人格の過去を姉妹を使って見せているといってもいい。

 

「ママ」の母親は男をとっかえひっかえ。さみしさのあまり、けがをすれば心配してもらえるのではないかと幼心に考えた幼い「ママ」は熱湯を頭からかぶった。

 

というのが本当の出来事。

 

舞台上で見せていたのは人格たちの記憶のずれで生じたバグみたいなもの。

 

だからセリフに書いてあってもそれが事実だとは限らない。人格たちが勝手にいっていることだってある。

 

それに惑わされると全く物語がつかめなくなってしまう。

 

また、あの熱湯をかぶるシーンの手前はコーヒーを飲む女とコーヒーを入れる男の接点に見えるようにも作った。

 

コーヒーを入れる男は「先生」と呼ばれているが、次々に代わる人格たちの中では認識が薄く、職業も定かにはしていない。

 

先生とひとことで言っても、精神科の先生なのか、幼稚園の先生なのか、もしくは、ただの家庭教師かもしれないし、出張ホストのサービスかもしれない。

 

そこは、観客に任せることにしている。

 

コーヒーを入れる男のメモ用紙はギャラリーにはってあった。気づいている人は少なかったが。

 

「きょうは俺は幼稚園の先生らしい。」

 

「お菓子だけはよく食べる。」

 

「外出の許可が下りた。」

 

などという意味深なメモを残しておいた。

 

それを見つけた人は「ほうほう」となるように飾り付けしておいた。

 

コーヒーを飲む女に毎度かまかけるように会話をしなくてはいけない俳優は大変だったと思う。

 

会話がどうしても成立しないのに、よくやってのけた。

 

仮に彼が精神科の先生ならば…多分、恋愛は絶対にない。

 

メモに「一緒に春を迎えられたらいいな」というのも書いておいてほしいとお願いした。

 

彼がママの中にいる、大切な記憶を忘れてしまった。コーヒーを飲む女を大切に、なおかつこの一人の女性を助けたいという気持ちが彼の中にあったことは間違いない。

 

最終的にあんなダークな感じで夢も希望もない終わり方としたが、コーヒーを飲む女が現れたことで、少なからずママが全うな女性に戻れるかもしれない?という希望だけはちらつかせておいた。

 

あんな猟奇的な殺人鬼になる前にこの人格が現れていたら、もしかしたら彼女は普通の生活に戻っていたかもしれない。

 

でも、そんな奇跡がおきるわけもなく。

 

死体と寝て、死体を埋めて。冷たい男たちと肌を寄せ合って薄笑いを浮かべていくんだと思う。

 

■出演者

青木裕美子
大和田沙織
小保方こうた
杉原幸子
野平真未
宝星泰蔵(Aslightプロダクション)
矢鋪あい
柳田幸則(東京オレンジ)
我妻教子(USP)

■スタッフ

作・演出:ながみねひとみ

舞台監督・舞台美術 坂野早織
照明 内山唯美(劇団銀石)
音響 角田里枝
衣装・メイク・小道具 色川奈津子
音楽提供 SF 潤
制作 佐藤亜美(箱六個)
宣伝美術 わたなべえり(箱六個)
企画・製作 箱六個、第6ボタン
協力 堀口武弘 夕(八角家) みやびん 仲村須磨子